トラウマ(PTSD)治療としてのヨガ、瞑想①:身体を感じることの耐え難い苦痛からの解放
ヴァン・デア・コークの『身体はトラウマを記録する』を腰を据えて読んでいる。
彼は、PTSD/トラウマ治療の臨床と研究の世界的な第一人者の精神科医だ。本書は、彼の30年にわたる活動の集大成として発行された(米国では2014年。日本では2016年)。
これは、ヨガ教師・ヨガセラピストとしての学びという以前に、私自身の自己理解と回復と癒しのための作業だ。
身体を感じることの耐え難い苦痛:覚醒亢進
そもそも私がヨガをPTSDの治療として本格的に始めたのは、PTSDの侵入、回避、覚醒亢進の三大症状(注1)の一つである「覚醒亢進」に対処するためだった。
トラウマの心理療法を通して、酷い症状はある程度までは落ち着いてきたが、覚醒亢進だけが生活の質を著しく落とす症状として存在し続けた。
トラウマ治療の前の覚醒亢進が最も酷かった頃の様子を具体的に挙げると:
・不眠:
どうしようもなかった。起きていることも辛いのに、寝ることもできないのが苦しかった。5種類くらいの睡眠薬を飲んでもどうにもならないときは、鎮静剤をのんだ。眠れないことへの恐怖感で苦しんだ時には、ウイスキーを一緒に飲んだりもしていた。
瞑想をするようになってから、眠ることへの執着、眠れない事への恐怖感が和らいだのでかなり精神的には楽になった。(眠れないなら眠れないまま、そのまま放っておいた)
・慢性的な疼痛(全身の筋肉痛、肩こり、背中の痛み、腰痛、頭痛ど)
会社員時代にヨガをはじめていたので、朝晩30分くらいベッドの上でストレッチ中心のヨガをしていた。自分にはヨガが必要だと自覚していたので、近所のヨガスタジオにも通ったが、無理をしすぎたため、1週間寝込むことになった。私にとっては安全とはほど遠い場所だった。結果として、一人で本をみて家でできることをやりつづけていた。
このお陰でなんとか最悪よりはましな状態だったが、酷い痛みはどうにもならなかった。ヨガもする気がない日は、固まった身体に閉じ込められるように、寝たきりの日も多かった。
・呼吸器系:息苦しさ、胸のつまり、喉の奥がつまった感じ。
不快感が酷すぎるときは、逆流性食道炎か何かではないかと内科にいったりもしした。今思えばトラウマ症状だった。一呼吸一呼吸の苦しさを今でも覚えている。苦しさに焦点を当てると、ますます息苦しくなってきて、恐怖感すら覚えた。
・消化器系:ひどい便秘、過食、拒食
子どもの頃からの慢性便秘がさらに酷くなった。便秘薬を飲んでもうんともすんともいわなくなったこともあり、腹痛に苦しんで脂汗をかいて病院に駆け込んだ。病院で浣腸をしてもらうも、それでも全く出ず。腸閉塞を疑われて、レントゲンをとっても異常なし。できることがなく、そのまま家に帰った。腸が全く機能しなくなった。
・感情的な感受性の異常な高さ:
小さな刺激で激怒したり(主に夫に対して)、恐怖で固まったり(ちょっとした音とか、悲しいニュースとか)、悲しみで絶望の底に落ちたりした(ちょっとしたできことで、世界の終わりかのように泣き叫んだり、鬱で寝たきりになったり、死のうとしたりする)。
・異常な疲れやすさ:
少し動いては燃え尽きて寝込む、を繰り返す。家事をするのも、人とあう約束をするのもままならなかった。
・集中できない、落ち着いていられない:
本を読んだり、パソコンで仕事をしたりするのが本当に大変な作業だった。
など。
交感神経が戦闘モードで異常に働き続けている状態なので、副交感神経の働きで機能するような心身の調整が全くできなくなっていたというわけだ。
とにかく、1日1日を生き延びることで必死だった。(1日というより、一瞬一瞬!)
生き残りのための戦略
これに対処するために、私がとっていた無意識のうちにとった生存戦略。
・処方薬を飲む:
不快感に耐えられないため、頓服の量がどんどん増えていった。特に、世界的には悪名高き、ベンゾチアゼピン系の精神安定剤。これはアルコールとほぼ同じような脳と身体の弛緩効果と依存性がある。減薬するのは本当に大変だった。
・甘い物を食べる:
上記の処方薬を減薬していった時に、猛烈に依存した。要は白砂糖への依存。苦痛を麻痺させる効果がある。
・韓国ドラマを見続ける:
落ち着いていると、不快感を感じてしまうため、心を身体から隔離する必要があった。熱中させてくれるドラマをみるのは、身体から心を切り離す上で効果的だった(つまらないものでは集中できないからダメ!)。韓国ドラマは、1話も1シリーズも長いし、在庫も豊富だし、本当に助けられた。身体は酷使したが、精神的には滋養になったものも沢山ある。
人は生き延びるために、無意識で自分を癒そうとする。私がやっていたというよりは、サバイバル脳と身体がやっていたといえるかもしれない。
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長くなったので、ヨガによる効果については、次号にゆずります。
普通に呼吸して、眠れて、排便ができる、今この瞬間にくつろける、ということがいかに幸せかを改めて感じました。
感謝です。
堀桃代
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(注1)PTSDの3大症状とは:
①侵入:いわゆるフラッシュバック。トラウマ体験とその生々しい苦痛を、覚醒時や眠っているときに肉体的・感情的なレベルで再体験する。(眠っているときは、悪夢として)
②回避・麻痺:トラウマに関連した場所・会話・感情・思考を避ける。感情・感覚の麻痺。孤立感・絶望感。肯定的な感情が湧かない。ひきこもり。
③覚醒亢進(過覚醒):入眠・睡眠困難。過度の警戒心。集中困難。小さな刺激に異常に敏感(怒りの爆発、驚愕反応、絶望。
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