トラウマ(PTSD)の補助治療としてのヨガ:米国の最新研究の紹介

2014年6月に米国で70年の歴史を持つ査読付の臨床医学雑誌である『臨床精神医学』(Journal of Clinical Psychiatry)に発表された論文を抄訳してご紹介します。(抄訳・解説:堀桃代)

*原文記事:Yoga as an adjuctive treatment for posttraumatic stress disorder:a randamized controlled trial, Journal of Clinical Psychiatry, 75(6), e559-e565, 2014.

PTSD(心的外傷後ストレス障害)の補助治療としてのヨガ:ランダム化比較試験

◎背景

米国に住む暴力被害の経験のある女性約1,000万人の約3分の1の人が、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しんでいる。一般的に普及している治療法では、多くの場合、効果が十分ではない。というのも、PTSD回復にとって、情動と衝動の調整が、主要な問題であるからだ。
本研究は、情動耐性・鬱・PTSD症状を改善する上でのヨガの効果について研究した。

◎研究手法

慢性的な治療効果の上がらないPTSDの症状のある64名の女性は、トラウマ治療のためのヨガと、女性健康教育の2つのグループにランダムに分けられ、週1時間のクラスを10週間受けた。
効果測定は、治療前・治療中・治療後の3段階で、DSM-IV(米精神医学会の精神障害の診断と統計マニュアル)、情動調整、鬱について実施された。
調査期間は、2008年から2011年。

◎結果

主要な効果測定は、PTSD臨床診断面接尺度(CAPS)をもとに行われた。
治療後に、31人中16人(52%)のヨガグループの参加者は、PTSDの診断基準にもはや適合しなくなった。一方、健康教育グループの参加者における同様の結果は、29人中6人(21%)だった。

両グループ共に、治療前期でめざましいPTSD症状減少の効果が現れたが、ヨガグループの効果がその後も継続した一方で、健康教育グループは治療後期で症状の再発があった。

◎議論

ヨガは、研究のより進んでいる心理や薬物療法的な手法と比較して、PTSD症状を著しく減少させた。ヨガによって、恐れや無力感に関連した肉体的・感覚的な体験に耐える力が向上し、感情への気づきと情動耐性が増加することによって、トラウマの症状を持つ人の機能を回復させるものと推定される。

解説:米トラウマセンターによるPTSD治療としてのヨガの効果を証明した初の科学論文

ヨガは、身体を使ったポーズ、呼吸法、瞑想を組み合わせた包括的な実践です。5000年以上前にインドで始まったヨガの実践は、科学技術の発展により、様々な身体的・精神的な症状に対する治療効果が科学的に証明されてきました(注1)。

これは、米国トラウマセンターにおける、ヨガのPTSD治療効果に関する初めての査読付研究論文です。

本研究のリーダーであり、トラウマセンターの設立者、世界的なトラウマ研究の第一人者であるヴァン・デア・コルク博士(精神科医)は、自身の臨床経験にからPTSD治療(特に複雑性PTSD)に対する心理療法や薬物治療の限界に直面し、1998年頃よりトラウマ治療としてのヨガの実証研究を重ねてきました。

ボストン・トラウマセンターでは、1998年にヨガによる治療効果の実証研究が始まり、2003年にはヨガ教師のデイヴィッド・エマーソン氏が加わってトラウマ治療としてのヨガのクラスがスタートしました。

沢山のヨガ教師、ソーシャルワーカー、医療専門家、生徒たちの協力により、トラウマ治療のためのヨガのモデルが開発され、”トラウマセンター・トラウマ・センシティ・ブヨガ”(TC-TSY)と呼ばれる形になりました(注2)。

2014年の本論文の発表後の2017年に、TC-TCYは、科学的に証明されたトラウマ治療法として正式に登録された世界で初めてヨガプログラムとなりました(注3)。

本研究以前の先行研究においては、
・心拍変動の測定による自律神経機能(衝動・情動の制御機能のバロメーター)の回復効果(弁証法的行動療法DBTグループとの対照研究)
・脳画像診断による脳(生理的自己調整に関わる島と内側前頭前皮質)の機能回復の効果

などを実証しています。

日本においては、トラウマ治療の選択肢も専門家の数も限られるばかりか、診断すらも正確に行われないのが現状です(注4)。慢性的なPTSDやそれに起因する心身症状からの回復のための有効な治療法の一つとしてヨガの認知とアクセスを拡げていくことが望まれます(注5)。

<脚注>
(1)ヨガによる効果が科学的に証明されているもの(抄訳した論文より抄訳して抜粋)
・実践によって変化・改善が起こる生理機能:自律神経機能、筋力、血圧、心拍数、呼吸機能、コルチゾール(ストレスホルモン)、カテコールアミン(ドーパミン、アドレナリン、ノルアドレナリン)、覚醒調整
・補助療法として効果があると実証されている身体症状の一部:ぜんそく、心臓疾患、糖尿病、高血圧、慢性疼痛、関節炎
・効果があると実証されている精神症状一部:不眠、鬱、不安、急性ストレス反応

(2)米ボストンのトラウマセンターでは、TCTCT(Trauma Center Trauma-Sensitive Yoga:トラウマセンターのトラウマに配慮したヨガ)として指導者育成のための専門トレーニングを行っている(TC-TCTのウェブサイト)。一般名称として、”Trauma-centered Yoga”(トラウマ中心のヨガ)という呼称もある。

(3)アメリカ合衆国保健福祉省薬物乱用・精神衛生サービス局(SAMHSA)内のNREPPにおける登録。

(4)筆者自身、本格的なトラウマ治療に出会うまで、鬱、不安障害、双極性障害、境界性パーソナリティ障害、統合失調症などの様々な診断名を付与された経験がある。PTSD症状の苦しみを癒すための本能的な自己治癒行動の結果として、アルコールや薬物などのあらゆる依存症、摂食障害などが引き起こされている可能性があある。筆者自身も、存在することの耐えられない苦痛により、処方薬依存、摂食障害、DV(共依存)などを併発した。

(5)トラウマ治療としてヨガを実践するには、専門的な理解とそれに基づく支援者のもとでの実践が必要だ。取り組み方を間違えると、逆にトラウマ症状を悪化させる危険性があるので、治療としての取り組みは、必ず、主治医の承諾と専門のヨガ指導者のもとで実践すること。なお、本研究の対象として参加した慢性的なPTSD症状を持つ女性達は、ヨガによる治療のみを単独で受けたのではなく、心理療法などの通常の治療に”追加”して受けたという点も明記したい。当研究チームのヨガ教師であるエマーソン氏は、「全ての人ではないが、多くの人が、トラウマ治療のためのヨガ体験についてトラウマを理解する専門家と話す機会を必要としている。」と言及している。(David Emerson2016他

<参考文献>
ベッセル・ヴァン・デア・コルク著『身体はトラウマを記録する』(2016年)
デイヴィッド・エマーソン他著『トラウマをヨーガで克服する』(2011年)
ジュディス・ハーマン『心的外傷と回復』(1999年)

追記:ヨガをトラウマ治療に

私自身の複雑性PTSDの治療のプロセスも、まさに、薬物療法・心理療法を経ても治療効果のあがらなかった「過覚醒」の症状(情動コントロール不能・不眠・慢性的な身体の痛み等)からの回復できたのは、マインドフルネスを大事にするヨガ(クリパルヨガ、マインドフルネス・ヨガ)の実践をはじめてからでした。(*詳しくはプロフィールを参照>>

ヨガを単なるリクリエーションや健康増進のツールとしてだけでなく、効果が科学的に証明されている有効な治療法として更なる研究開発と普及を進めていきたいと願っています。

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【記事の内容の転載・引用について】
本ページのリンクと抄訳者名(フェニックス・ライジング・ヨガセラピー公認ヨガセラピスト堀桃代)を必ず明記してご利用ください。ご不明点は遠慮なくお問い合わせください。

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