PRYTの創始者マイケル・リー、誕生の背景と歴史、セッションのもたらす癒しと変容の効果について、堀桃代のトレーニング卒業レポートを抜粋してご紹介します。

 

フェニックス・ライジング・ヨガセラピー(PRYT)とは?

フェニックス・ライジング・ヨガセラピー(以下、PRYT)は、1986年にオーストラリア出身で米国在住のヨガ教師であったマイケル・リーによって開発されました。
それは、伝統的なヨガの実践と現代的な気づきを促すダイアログ手法を組み合わせ、クライアントの身体や人生で「今何が起きているのか(What’s happing now?)」に関する気づきを促すクライアント中心のプロセスであり、それらを統合することで、クライアントの人生に望ましい変化を引き起こすためのものです。

米国では、1986年からプラクティショナー養成のためのトレーニングが始まり、この30年間で2,000名以上が養成されてきています。
気づきを促すシンプルで効果的なツールとしてだけでなく、医学的・心理的条件で行われる補助的療法としても幅広く応用されている実績があります。それには、慢性的痛みのケア、産前産後のサポート、禁煙、減量プログラム、ストレス低減、年少者の多動性障害のケア、怪我や手術などのリハビリ期間の患者サポート、不安・鬱・依存症・トラウマからの回復などが含まれます。

日本では、クリパルヨガ教師でもあり、米国に渡ってトレーニングを受けた国内唯一の活動中の認定プラクティショナーである三浦徒志郎氏(クリパル・ジャパン代表)が、個人セッションやワークショップなどを通じて本ワークを国内で紹介してきました。クリパルヨガを実践していた筆者も、この縁で、本ワークに出会いました。

そして、2015年9月には日本で初めてトレーニングが開催され、米国から創始者のマイケル・リーがディレクターとして来日し、直接指導を行いました。2017年1月には、日本での第一期トレーニングを卒業した15名が、初の“国産”認定ヨガセラピストとなり、筆者もその第一期生の一人です。


写真:日本第一期生15名。マイケル・リー(後列中央)、三浦徒志郎氏(マイケルの右側)、堀桃代(前列左端)

歴史と背景

PRYTの創設者であるマイケル・リー(以下、マイケル。)は、オーストラリアで生まれ、大学で教育学・心理学を学んだ後、組織開発のコンサルタントとして企業内の個人や組織の成長に携わっていました。そこで関わる人々の変化が表面的な一過性のもので終わってしまう現状に困難を感じ、伝統的なヨガの科学(注1)のもつ人を変革させる可能性に惹かれて、自らヨガの実践を始めるようになりました。
マイケルは、ヨガの実践を続ける中で、身体だけでなく感情や心理的な変化が起きていることにも気づき、「身体が自分自身の内面的存在、気づき、感情、心、真実、魂とつながるツールだということが分かってきた」。

マイケルは、ヨガの持つ可能性をより本格的に探求するために米国に渡り、1984年よりクリパルセンターでヨガの研究と指導に従事しました。その中で、ある大きな発見をしました。
ヨガのポーズを行いながら、「きつすぎず、ゆるみすぎないちょうど中間のところ」を探し、この「エッジ」(瀬戸際)でポーズを保つことで、イメージや感覚や新しい気づきがわき出てくること、ヨガでポーズをとっているときのエッジと人生において体験するエッジの間に驚くような繋がりがあることに気づいたのです

そして、この洞察をもとに伝統的なヨガの実践を現代に生きる私達の人生の変革や自己成長のために活かす手法を模索していく中で、1986年に本ワークが誕生しました。
フェニックス(不死鳥)が自ら火の中に飛び込んで古い自分を捨て去り、再びその灰のなかから新しい姿となって蘇っていく姿を、本ワークがもたらす人の変革の象徴として、「フェニックス・ライジング」と名付けました。

PRYTは、クライアントとトレーニングを受けたヨガセラピストの1対1で行われる個人セッションの形をとり、セラピストはクライアントに身体や呼吸や瞑想を通した様々なヨガ体験を誘導しながら、現代の人間性心理学の手法にも基づいた深いレベルの気づきを促す対話(ダイアログ)を行います。
ヨガの伝統に基づく当ワークの核となる原則・考え方は「全ての人には内なる指針となる身体の智慧を備えている」というもので、これは現代の人間性心理学とも調和するものです(表1)

【表1】PRYTの核となる原理

・  全ての人は、自らを癒す能力をその内側に備えている。
・  日常で意識できる領域を超えたところに「内なる智慧」がある。
・  癒しと成長は、肉体・感情・精神・霊的なすべての領域に気づきを拡げていくことによって促される。
・  新しい気づきによってどんな洞察が出てこようと、それを判断のなく受容することが、その癒しのプロセスを促進するものとなる。特に、それが日々の生活に統合された場合。
・  身体(身体的な身体)は、すべての領域の存在に対する気づきを得る上で、便利なツールである。これは、自分の全ての体験に対して細かな注意を払っていく態度を通して、達成される。

(注1)ヨガの馴染みのあるイメージは、身体を動かすエクササイズとしてヨガポーズを実践することかもしれない。しかし、本来のヨガは、人が「解脱」に至るための人の心に関する完全な哲学と実践方法の体系であり、ポーズは8つある実践法の一つにすぎない。その8つ(八支分)とは、①禁戒、②歓戒、③坐法(ポーズ)、④調気(呼吸法)、⑤制感、⑥集中、⑦瞑想、⑧三昧、である。(スワミ・サッチダーナンダ1989)

PRYTによる癒しと変容

クライアントは、セッションの中で、通常、実際の身体の体験を通して自覚していなかった「自分の一部」を発見します。
それは、クライアントにとって役に立たない思考や行動のパターンや信念だったり、あるいは、Cがまだ自覚していない新しい可能性や力強さ、忘れかけていた肯定的な資源などだったりもします。

クライアントは、セラピストに心身共に完全にサポートされた環境によって、体験によって気づいたものを価値判断なく受け入れることができると、深い癒しが起きたり、本当はどうありたいかという自分自身にとっての真実、”本当はどうしたいのか”という新しい意図を発見することができます。その意図は、多くの場合、クライアントにとって不要なものを手放し、必要なことを新たに生み出していくということです

ヨガ体験からの学びによって、自分にとって本当に必要なことと不要なことを見極め、実生活の中で意識的にそれを取捨選択し、例え小さくても自分の真実から新しい行動をとっていくことで、生まれ育って来た環境の習慣を受け継ぐ「古い自分」から、「本来の自分」へと自分自身を変化・成長させていくことができ、自分の本当の願いに沿った自分らしい人生を実現していくことにつながっていきます。

本ワークは、まさに、ヨガの実践がもたらす人の変容のプロセスそのものをサポートするようデザインされています(注2)

終わりに

人の変化と成長には、一人一人固有のプロセスがあり、その探求こそが人生ではないでしょうか。
他人がその人にどう生きるべきか、どうすれば幸せになるかを教えることはできません。
しかし、現代の社会では、あたかもそれができるかのような現象が、人間関係や商品・サービスの中に溢れているように感じます。そして、そうした環境の中で、ますます私達一人一人が、自分の人生に混乱しやすくなっているのではないかと感じます。

PRYTでは、一人一人が内なる智慧を頼りに、本来のあるべき姿に成長していく力と変化のプロセスを信頼して、今ここにいるクライアントの在り方を無条件に受け入れるところからスタートしています。
そして、そうしたセラピストの関わり方そのものが、クライアントの本来持っている可能性を引き出し(エンパワー)、よりその人らしくその人にとっての幸せを追求して生きていくサポートになると信じています。

セラピストが行うこと(doing)は非常にシンプルですが、鋭い感性でマインドフルにそこに存在(being)する必要があります。マイケルが言っていたように、「何もしないことが、何かをすることと同じくらい重要」になります
気づきをサポートすることは、とても奥が深く、チャレンジングです。

最後に、あるプラクティス・セッションのクライアントからセッション直後に回答してもらったアンケートの最後の言葉を紹介したいです。

「気づきを引き出していただき、ありがとうございます。」

本ワークに携わるセラピストにとって一番嬉しい言葉でした。

(注2)PRYTでは人の変容のプロセスを次の8段階のモデルとして捉えている:①身体に親しむ、②気づき、③受容、④選択、⑤識別、⑥真実、⑦真実に基づく行動、⑧フロー。(Lee2005)

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以上、堀桃代(2016)『身体を使った気づきと癒しと変容のワーク〜フェニックス・ライジング・ヨガセラピーの事例紹介〜』からの抜粋でした。

感想やご質問などありましたら、お気軽にお寄せいただけるとありがたいです。
興味のある方は、ぜひ一度体験にお越しください。

(関連リンク)